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最高裁判所第三小法廷 昭和25年(れ)1764号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人湯川忠一の上告趣意は末尾添附の別紙書面に記載のとおりである。

同第一点(一)について。

原審は第七回公判期日において弁論を終結し判決言渡期日を五月一一日と指定告知したが、右五月一一日の第八回公判期日に被告人は出頭せず、次回期日は更に六月一日に指定告知されたが、右六月一日の第九回公判期日にも被告人は正当の事由なく出頭しなかったため、次回期日は更に六月二〇日に指定告知されたものであって、右第九、一〇回各公判期日の被告人に対する召喚状は適法に発せられているのである。右各期日は弁論終結後判決言渡のために指定されたもので、裁判所は弁論の終結後は被告人出頭せずとも宣告により判決を告知しうること旧刑訴法三六八条の定めるところであるが、判決言渡期日も公判期日であって、被告人は適式の召喚を受けながら出頭しなかったものである。公判の審理は原則として被告人の不出頭のままではこれをなすことができないが、原審は旧刑訴法四〇四条により被告人が適式の召喚を受け乍ら正当の理由がないのに拘らず、再度公判期日に出頭しないときはその陳述を聴かないで判決することができるといわなければならない。本件についてこれを見るのに、原審はその第八、第九及び第一〇回各公判期日に、被告人が前述のように出頭の義務があるにも拘らず、正当の事由なく二回以上に亘って出頭しなかったのであるから、たとへその第七回公判期日に一度終結した弁論を第一〇回公判期日に再開し、弁論を行った上即日結審したとしても右公判に被告人の弁護人が立会っていたものであり、実質的には弁論が行われず、又右弁護人が最終陳述をしていることが記録上明らかである以上、原審が被告人の陳述を聽かないで審判をなし、これに基いて判決したとしても原審の右の訴訟手続は、旧刑訴法四〇四条所定の場合に当り、所論同法四一〇条八号に所謂「別段の規定ある場合」とみるべきであるから原審の訴訟手続に所論のような違法はない。

同第一点(二)について。

しかし所論の検証並びに検証現場における証人訊問の決定は被告人並びに弁護人が出頭していた原審第一回公判期日になされ右検証及び証人訊問期日はその際弁護人にも告知されているのであるから、弁護人に対して右検証及び証人訊問に立会する機会は与えられたものである。それにも拘らず同弁護人は自己の都合により右期日に立会わなかったまでのことであるから右の各証拠調はこの点に於て違法はないといわねばならない。

次に被告人について見るのに右証拠調期日当時被告人は拘禁されていたことは記録上明かであるから、旧刑訴法一七八条一五八条但書により被告人が右検証に立会わなかったとしても違法とはならない。又被告人が拘禁されていたため右証人訊問に立会うことができなかったとしても、前段に説示したように、本件弁護人がこれに立会う機会が与えられていたのである。そして本件検証現場における証人訊問は公判廷外における証拠調であって、その供述はそのまま証拠となるのではなくその調書が書証として証拠になるのであり、その内容は必ず被告人に読聞けられそれに対して不満があれば被告人は更に審問することを請求しうるのであって、原審裁判長は被告人に対し特に右の請求ができることを告げたにも拘らず、被告人からその請求をしなかったのであるから、被告人が所論の証人訊問の際に立会わなかったことは原判決破棄の理由とならず、またそれが憲法三七条二項に違反するものでないこと、当裁判所大法廷の判例の趣旨に照して明かである。(昭和二三年(れ)第一〇五四号同年九月二二日大法廷判決)。論旨は理由がない。

同第二点について。

原判決の理由中法律の適用の部分に「刑法第百九十九条、同第三十九条第二項、第六十八条第三号、第七十二号第二号」とあることは所論の通りである。しかし右の第七十二号とあるのは第七十二条の誤記であること原判決文に徴し明白であるから論旨は理由がない。

同第三点について。

原判決はその判示第三事実の証拠説明として『当審における証人鈴木なみに対する訊問調書中同人の供述として「(中略)三浦がそれから一時間位経って午後六時帰って来た。自分はその日は三浦が高山とこそこそ話をよくしていたので何か主人に面白くない所でもあるのかなと思っていた(後略)』旨の記載のあることは所論の通りである。しかし右の訊問調書を検討してみると、前後の関係から三浦は高という別の朝鮮人とこそこそ話をしていたのであって、証人の夫(被害者)たる高山とこそこそ話をしていたのではなく、原判決は「高」を「高山」と誤記したことが明白である。よって論旨は理由がない。

そこで旧刑訴法第四四六条に従い主文のように判決する。

右は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介)

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